平成元年(1989年)は時価総額上位50社中32社が日本企業だったのに対して、平成30年(2018年)はトヨタのみの一社だけです。
代わりに上位はGAFAM、BATHという米中IT企業となっています。
この比較表のようなものがSNSで流れてくるのを、みたことがある人も多いのではないでしょうか。
ハイテク業、製造業で栄華を誇った日本も現在では、一人当たりGDPは他国に抜かれG7の中で6位。
少子高齢化もどんどん進み、あまり未来に希望が持ちづらい状況となっています。
その大きな要員の1つがIT(ソフトウェア)の力を見誤り、時代の変化に乗れなかったことです。
そのような状況の中で、企業は少しでも早く、ITの力を活用していくことが求められています。
ITの力を生かした、「ソフトウェア・ファースト」な企業になるためには、企業はどう変わる必要があり、どのような人材が求められているのかということを解説した本が
『ソフトウェア・ファースト』
私自身、昨年から社会人となりIT業界に身を置いている中で、
「ITの力をどう使ったらいいのだろうか?」「IT人材としてどのようなキャリアパスを歩んでいけばいだろうか?」ということを考えていました。
そんな状況にぴったりだったのがこの『ソフトウェア・ファースト』でしたので、特に印象に残った3ポイントをピックアップして紹介していきます。
「企業がITを活用するには、経営陣がITを理解しないといけない」ということがこの本の大きな主張の1つです。
ですので、経営者層も対象読者なのですが、この記事ではIT人材としてキャリアをスタートさせた人の視点で紹介していきます。
IT業界に身を置き、自身のキャリアについて考えたい人
企業のIT変革に関心がある人
世の中でおきているITの力を生かした企業変化の流れを知りたい人
『ソフトウェア・ファースト』の概要
【概要】
著者:及川卓也
出版社:日経BP
出版年月日:2019/10/10
ページ数:380p
著者である及川卓也さんは、MicrosoftやGoogleにてプロダクトマネージャーやエンジニアリングマネージャーを経験してきた方です。
IT業界の第一線で活躍している人による、企業のIT活用についての本となっています。
「ソフトウェア・ファースト」という考え方
ソフトウェアの力だけでは良いプロダクトは生まれませんが、凄まじい破壊力を持つソフトウェアの特徴を理解し、プロダクトや事業開発の全てを変えていくことが、これからの企業の競争力を左右します。
また、ソフロウェア・ファーストを実践するには、ソフトウェア技術を理解し、事業に活用できる人材が必要です。このような人材を育て、活かせる組織が必要です。
IT活用というと、最近では「DX」という言葉がちょっとしたバズワードのようにもなっています。
ただ、本当の意味でのDXとは、「単にアナログのものをデジタルに置き換えて、効率化を測る」というものではなく、
「デジタルだからこそできる付加価値をつけて、事業変革を行ったり、新規事業を創出していくこと」だと本書の中で述べられています。
DXの本質については、『アフターデジタル』という本が特に詳しく書いてありました。
ソフトウェアは、単に業務を効率化するものではなく、自社の事業の根幹に関わるものなのです。
そうある以上は、経営者もその技術を理解しないといけないですし、組織もそれに合わせて変わる必要があるというわけです。
この考え方が「ソフトウェア・ファースト」です。
自分が仕事をしているときも、単なる効率化のためにIT活用の業務に関わっていました。
その際にいまいち楽しみが感じられませんでしたが、それはまさに効率化のためのIT活用だったからでした。
DXとはIT活用の「手の内化」
DXが企業の事業の根幹に関わってくるという話をしました。
そして、そのような変化のためにには、IT活用の「手の内化」が必要だと本書では述べられています。
「手の内化」とはつまり、外部のSIerに委託するのではなく、自社内でエンジニアチームを持ち、プロダクトの企画、開発、運用を全て実施するということです。
かつては、ソフトウェアは一度開発してしまえば終わりと考えられていました。
開発してリリースすれば終わりというのであれば、外部SIerに依頼する方が、人材を保有するコストも育成するコストもかからずお得だったからです。
ただ、現在ではDevOpsやXaaSといわれているように、作って終わりではなく、フィードバックを得てリアルタイムで反映させて改善していくことが求められています。
となると、外部に依頼しているのではスピードがたりません。だからこその「手の内化」です。
ITを効率化のための便利道具ではなく、自社サービスのUXを常に改善させていくためのコアだと考えれば、外部に依頼するというのは確かにおかしな話です。
「自社内にエンジニアを保有する」「そのための組織体勢を整える」という組織の変革なくして、DXは実現しないのです。
上流工程ほど、給料が高くなり、エンジニアはいまいち軽視されている場所が多いですが、これから変わっていくのでしょうか。
エンジニアとして会社を選ぶのであれば、ここらへんを見ておくといいのかもしれません。
本書では良い例として、コニカミノルタやさくらインターネットの事例が紹介されていました。
IT人材としてのキャリアパス
IT人材のキャリアパスを3つに大きな柱は
- 技術に軸足をおいた「エンジニア」
- 強いエンジニアリング組織を作る「エンジニアリングマネージャー」
- ビジネスに軸足をおく「プロダクトマネージャー」
が紹介されています。他にも、「デザイン・UX関連職」「QA(品質管理)関連職」「プロジェクトマネジメント関連職」などが紹介されています。
主要な3つの中で、プロダクトマネージャーは必ずしも、エンジニアからのキャリアとは限りません。
ただ、ソフトウェア・ファーストの考えでは、エンジニアとしての経験もあることが望ましい、というのが著者の意見でした。
どのようなスキルを身につけて、どのようなキャリアパスを歩んでいくかの指針として、参考になります。
「エンジニア」とひとくくりにいっても、どうも概念が広く、いまいちキャリアがイメージできていなかった自分としては、このような分類はとても助かりました。
『ソフトウェア・ファースト』でこれからの企業を俯瞰する
「ソフトウェア・ファーストの時代」、別の本の言葉でいうならば「アフターデジタルな時代」において、「企業はどう変わるべきか」「個人はどういうキャリアを歩んでいくのか」ということが書かれている本です。
今回の記事では、どちらかというと個人にフォーカスした話を紹介しましたが、組織の作りか方や人材の採用についてなども書かれているので、ご興味ある人は読んでみてはいかがでしょうか。