小説

【感想】『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ|鮮やかに描き出される、深く大きな家族愛

 

2019年第16回本屋大賞大賞作品

瀬尾まいこさんの
『そして、バトンは渡された』

冒頭文

 なにを作ろうか。気持ちのいいからりとした秋の朝。早くから意気込んで台所へ向かったものの、献立が浮かばない。
人生のいち大事を控えているんだから、ここはかつ丼かな。いや、勝負をするわけでもないのにおかしいか。じゃあ、案外体力がいるだろうから、スタミナをつけるために餃子。だめだ。大事な日ににんにくのにおいを漂わせるわけにはいかない。オムライスにして卵の上にケチャップでメッセージを書くのはどうだろう。また優子ちゃんに不気味がられるのがおちかな。ドリアに炊き込みご飯にハンバーグ。この八年で、驚異的に増えた得意料理を頭に並べてみる。何を出しても優子ちゃんは、「朝から重すぎるよ」と言いながらも残さず食べてくれるだろう。でも、きっと、今日は話が尽きない。冷めてもおいしくて、簡単に食べられるものがいい。

瀬尾まいこさん
本屋大賞初ノミネートにしていきなり大賞受賞!

 

2位から7位に200点代でひしめくなか
435点というスコアでの大賞受賞となった
(書店員さんの投票に応じて割り振られるポイント)

受賞時のコメントがこちら
2019年本屋大賞に瀬尾まいこさん「そして、バトンは渡された」 【受賞コメント動画有】|好書好日

3人の父と2人の母をもつ優子
本当の家族とは何?

不器用な、優子の家族達の
それぞれの愛情の物語

中盤の山場と最後で
涙がとまらなかった

一見重くなりそうなテーマを
重くしすぎず、しかししっかりその苦悩は取り込んで
鮮やかに大きく深い愛情を描いた作品

有り体に言うと笑いあり感動ありの作品

 

最後まで読んだ後に
もう一度冒頭文に戻ってみてほしい

 

家族の話なので家族内での自分の立場によっても大きく感想は変わる

自分は親というものの大きな愛をこの作品から感じて感動したが
自分の母に話したら

「親の自分からすると当たり前っちゃ当たり前と思うことも多いね。これを子供が読んでなにを思うのかな?」
と言われた

ほっほー

『そして、バトンは渡された』の作者、瀬尾まいこさん

2002年に『卵の緒』でデビュー

自分は他に作品を読んだことはなかったが
他の作品も是非読んでみたい

他の作品としては
『天国はまだ遠く』
『幸福な食卓』
『僕らのごはんは明日で待っている』
などがある

『そして、バトンは渡された』の感想

内容紹介はこちら

森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。この著者にしか描けない優しい物語。 「私には父親が三人、母親が二人いる。 家族の形態は、十七年間で七回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」 身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作

 

血の繋がりを超えた深く大きな真の家族愛

 

最初でも触れたように、三人の父と二人の母がいる優子

この設定からだと
なんとなく
「血の繋がりがないお父(母)さんなんかに言われたくない!」
となるなかで、ぎこちない関係が
紆余曲折あり
だんだんと仲良くなる

みたいな展開をついつい思い描いてしまったが
この作品はそうではない

一見重くなりそうな題材が
重くも軽くもなく
絶妙でやや不思議な雰囲気で
物語として表現されている

 

とぅーん
とぅーん
絶妙で不思議、だけど決して軽いわけではない雰囲気が絶品

 

ついつい笑ってしまう森宮さんと優子の会話

 

ストーリーは半分くらいが会話になっているので
とても読みやすい

特に3人目の父森宮さん、と優子の掛け合いが
すっごく楽しい
ちょっととぼけた森宮さんと
大人びている優子の会話

例えば優子が高校生の始業式を迎えるときのこんな会話

 「うん。たぶん、始業式にかつ丼食べてるのクラスで、いや、全国の高校生で私だけだよ」
「え?じゃ、かつ丼って、いつ食べるの?」
本気で驚いている森宮さんがおかしくて、私は思わずふきだした。
「いつって好きなときに食べればいいだろうけど。森宮さんのお母さんは始業式にかつ丼だしてくれたの?」
「俺の家は勉強第一の厳格な家庭だったから、そういうのはなかったな。」

 

とぅーん
とぅーん
だしてないのかい!

合唱祭の前日

 「なんていうか、父親なら娘が合唱祭で歌う曲くらい歌えて当然だろう?」
森宮さんはえへへと笑った。
「まさか。そんな父親いないと思うけど」
「やっぱり、そうだったか。練習しながらうすうす勘付いてはいたけど。……でもこの曲歌ってると、必要以上にやる気が出たよ。通勤電車の中で、広がる自由を求めてってうっかり口ずさんでしまった時は、みんなに白い目でみられたけどな」
「だろうね」
「まあ、やっぱ俺ってどこかずれてるんだよな」
どこかどころか、すごくずれている。

 

とぅーん
とぅーん
優子がクールすぎる!

こんなかんじで
おかしな二人の会話ベースで
軽快にすすむ

 

お互いの微妙な距離感から
生じてしまう微妙なすれ違いもあけれども
それもすべて
お互いを思い合っているからこそ

そういった愛情を節々で感じられる

また
なんとなくもっと書き込みたくなりそうな場所が
あえて省略されてしまっている印象もうけた

「おやっ?」と肩すかしをくらったようになるが
そこがいい余白となって
読者それぞれの感じ方を生み出している

 

爽やかな読み応え、程よく理想的な登場人物

チャートはこんなかんじ
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登場人物は理想的だけど
超理想的 ってかんじではない
結構現実味もあるかんじ

ストーリーとしては
家族とは?みたいなものを
考え直す機会にもなるが
ずっしり感、読み応えよりは
爽やかさが強い

まとめ

  • 家族愛を感じられる
  • 会話ベースで読みやすい
  • 森宮さんと優子の会話は必見

読む人の置かれた環境とかによっても感じる部分が大きく変わるであろう
家族愛を感じられる素晴らしい作品でした

2019年上半期に読んだ
会えて良かった小説5選の1冊です

 

ここまで読んで頂きありがとうございました

 

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