小説感想

【感想】『天地明察』冲方丁|江戸時代、天・算術・時代と格闘し続けた一人の囲碁打ちの壮大な物語

 

2010年 第7回本屋大賞

 

冒頭分

 幸福だった。
この世に生まれてからずっと、ただひたすら同じ勝負をし続けてきた気がする。
そのことが今、春海には、この上なく幸せなことに思えた。
気づけば四十六歳。いったいいつからこの勝負を始めていたのだろうか。
決着の時を待ちわびた気もするし、思ったよりずっと早く辿り着けた気もする。

 

『本屋大賞公式』2010年本屋大賞結果発表&発表会レポート

 

自分の大好きな作品
『神様のカルテ』をおさえての
2010年に本屋大賞に輝いたのがこの
『天地明察』

映画化や漫画化もしている

江戸時代に実在した天文学者 兼 囲碁打ち 兼 算術家
の渋川春海を主人公とした青春時代小説

自分の中のベスト10冊にも入る超おすすめ作品

名刺代わりの小説10選(2019年版) 名刺代わりの小説10選 Twitter読書垢で人気のこのタグ そもそもTwitterもやってないし名刺代わりの小説1...

 

こんな方におすすめ

時代小説(江戸時代)が好き

ワクワクするような作品が好き

天文学や算術、囲碁に興味がある

とぅーん
とぅーん
物理学科卒、時代小説や青春小説が好きな自分にはドンピシャの作品なのでたっぷりと紹介させてもらいます!

 

 

『天地明察』のあらすじ

物語の主人公となっている渋川春海(安井算哲)は
1639年ー1715年を生きた実在の人物

話の細かい部分で当然想像で埋めている部分も多いだろうが
登場人物も含めて基本的に史実にのっとった時代小説

テーマは天文学、算術、囲碁

文庫本2分冊で、合計600pくらい

 

天との戦い

この物語最大のテーマは

主人公渋川春海が
天の法則を算術を用いて明らかにすること

この春海が日本の暦を作った1600年代というのは
ヨーロッパであのガリレオが、天動説を唱え
ニュートンが運動の3法則によって数学的に惑星の軌道を導いた時代

それと同じ頃に、日本でも観測と算術で
天の法則を明らかにしようとした人がいたということだ

春海と天との戦いは
春海の全生涯、全人脈をかけた戦いとなる

徳川将軍は4代目から7代目まで変わる

空間的にも時間的にも
そのスケールの壮大さは圧巻

 

春海ひとりでは到底なし得ないこの大事業にはたくさんの人の援助がある
その中には、水戸黄門こと、あの水戸光圀もでてくる

あの名ドラマの主人公もここでは脇役
ただし、その存在感は大きい

 

他にでてくる登場人物として
建部伝内と伊藤重孝もめちゃくちゃ良い味を出してくる

彼らは、春海とともに、天測の旅に出る
春海よりもはるかに年上の二人は実にいきいきと天測の旅を続ける

そして、春海が自分の算術の師匠について語った際にこんなやりとりがある

「ぜひ弟子入りしたい」
はっきりとそう言った。なんと伊藤まで首肯している。この二人の老人にとって研鑽のためなら三十余も年下の若者に頭を垂れることなど苦でもなんでもないらしい。

とぅーん
とぅーん
実にかっこいい!!

年下から学べなくなってしまったとき
それはもう人として終わりだと、個人的に思っている

 

春海は最初の天測の旅で出会ったこの二人から
たくさんのことを学び、気持ちを受け継いでいく

 

算術との戦い

春海は元々囲碁打ちだ

それがなぜ、天の法則を明らかにする旅にでることになったのか?

 

それは春海に算術の心得があったからだ

 碁は、春海にとって己の生命ではなかった。過去の棋譜、名勝負をどれだけ見ても悔しさとは程遠い思いしか抱けない。今の碁打ちたちの勝負にも熱狂がわかない。
算術だけだった。これほどの感情をもたらすのはそれしかなかった。飽きないということは、そういうことなのだ。だから怖かった。あるのは歓びや感動だけではない。きっとその反対の環状にも襲われる。悲痛や憤怒さえ抱く。

 

選ばれし家系の者たちが将軍様の前で
事前に決められた棋譜を並べる

それが当時の碁打ち達の役割だった
もちろん研鑽を積むのだが、ほんとうの純粋な真剣勝負というものを
させてもらえるような環境にはない

そこらへんの囲碁打ちとしての葛藤の部分は
年下であるが、才気みなぎるライバルである本因坊道策とのやりとりで味わうことができる

是非作品内で楽しんでほしい

 

囲碁では道策というライバルがいた
ライバルといっても、道策は最強の棋士ともいわれるほどの才気の持ち主
春海よりも遥かに強い

一方、算術でも
春海よりもはるか高みに、関孝和という算術家がいた

西洋の数学導入前の数学
和算を大いに発展させ
関流という一大流派を築き上げた人物だ

 

ある算術の問題を通して
春海は関を知ることとなる

会いはしないが、ずっと意識し続ける存在

 

宇宙の法則も結局は数学で予測することができる
なぜそのようになっているかはわからないが

そうなっている

 

そういう意味では宇宙を知ることと算術を知ることは同じようなものである

天の法則を明らかにする春海
算術を極めていく関

この二人からも目が離せない

 

算術を通して出会った人として
関だけではなく、えん、という女性もいる

この、えんとの物語も見もの

時代との戦い

算術、天と
ちょっと理系っぽい感じの内容を紹介していたが

江戸時代であるというのもこの小説をより面白くしているポイント

そもそもなぜ江戸時代にこのように文化が発展したのか
それは戦国が終わり平和な世の中が訪れたからだ

そんな太平の世の中を作り上げることに尽力した人物の一人に
初代会津藩主、保科正之がいる

 正之はまず、将軍とは、武家とは、武士とは何であるか、という問いに、
“民の生活の安定確保をはかる存在”
と答えを定めている。戦国の世においては、侵略阻止、領土拡大、領内治安こそ、何よりの安定確保であろう。では、太平の世におけるそれはいかに。という問いに、
“民の生活向上”
と大目標を定めたのである。(中略)そして、またこの政策が、ことごとく、戦国の常識を葬っていった

 

この暦作りを春海に命じたのも正之

時代の転換期
かつての常識を塗り替えねばならない

それは決して楽な道ではない

そんな時代を生きた
一人の男、正之

 

算術的に正しかろうが
理論的に正しかろうが

それだけでは世の中は動かせない

 

そこには
人を魅了する激しい情熱と
世の流れを読む冷静な視点の両方が必要となる

春海にとって必要だった男、保科正之
正之にとっても必要だった男、渋川春海

 

いま、日本は少子高齢化も猛烈な勢いですすみ
成長期から成熟期へと転換している

この時代の転換期にも
春海や正之のような男が必要なのかもしれない

 

まとめ

囲碁の家に生まれ
算術を愛し

天と戦い続けた男、渋川春海

そして、その男に魅せられた数多の才能
水戸光圀、保科正之、関孝和、建部伝内、伊藤重孝

壮大なスケールで
ワクワクでき、魅力的登場人物あふれるこの作品

読んでない方は、ぜひ!
読んでみてはいかがでしょうか

 

ここまで読んでいただきありがとうございました

 

 

 

この作品を気に入った方におすすめの作品①

『青の数学』王城夕紀

数学での戦いをする高校生をテーマにした小説
純粋に数学を解く
ということで戦いをする高校生たち

彼らはなぜ数学をするのか、なぜ数学で戦うのか
数学の世界というものを
すこし神秘的な雰囲気とともに味わえる作品

 

この作品を気に入った方におすすめの作品②

『幻庵』百田尚樹

『天地明察』内でも描かれているが
江戸時代では、囲碁は真剣勝負や娯楽というよりは
将軍たちに見せるためのもの

基本的には世襲制
そんな時代の囲碁打ちたちについて書いた時代小説

著者の囲碁への愛が感じられすぎて
囲碁わかってないとちょっとついていけないところもあり

 

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