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【書評】『遅いインターネット』宇野常寛|今の世界を見るための視点を手に入れる

slow-internet

いま必要なのはもっと<遅い>インターネットだ

 

とぅーん
とぅーん
うーん、確かに、
ちょっとうちの光回線がサクサクすぎる
どんな動画もサクサクだ
これだけ速いと逆に遅いのが欲しくなってくるな

ちーがーうーだーろーこのハゲーーー



もはやすべってすらいない1ネタを入れたところで本題に入ろう

今回紹介させていただくのは
『遅いインターネット』宇野常寛

 

著者は宇野常寛さん
サブカルなどを中心に
『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)
など多数の著書を持つ

そんな宇野さんが
2020/02に箕輪さん編集で
NewsPicks Bookから出版した本が
この『遅いインターネット』である

 

 

箕輪さんと宇野さんの対談もYouTubeに上がっていて面白い

緩く長くで1時間もある動画ではあるが
最近ではこのように
本も単に読んで終わりではなく

著者の考えを本人の口からより深く聞くことができるのも
楽しさの1つだ

 

この対談の中では
宇野さん自身のこの『遅いインターネット』にかける
思いが伝わってくる

「サブカル系ではない本を書いたことが初めてであるし
これは自分にとってのマニフェストなのだ」

ということを言っている
確かに本の中では
現代というものを宇野さん独自の視点で分析したのちに
なぜ、遅いインターネットが必要なのか?
そして自身で始める遅いインターネットというコミュニティへとつなげていく

 

そして箕輪さんがこの動画の中で
「この本、めっちゃ良いよね〜」と話している様子も面白い
別動画では
「そろそろ僕も読者も起業家のイケイケな本って飽きてきてるんだよね
そのターニングポイントにもなりそうな本

と言っている

現代とはどういう時代なのだろうか?
ということを咀嚼しながら考える本である

そう、この本は一緒に走りながら考えてもらうための1冊だ。予め分かっていることを確認して安心するための本ではなく、手探りで、迷いながら考える本だ。そしてこの国を、いやこの世界を覆う目に見えない壁を破壊する言葉を手に入れること。それがこの本の目的だ。

 

この本はこんな方におすすめ

現代について考えるための視点が欲しい人

未来を創っていく人

結論を急ぐ<速い>インターネット的な雰囲気に疑問を感じている人

すでに読んでいる方はより思考を深めるために

まだ読んでいない方はこの本で言われている考え方に触れるために

お楽しみいただきたい!

 

2020.05.12時点では序章がnoteで無料公開中

 

 

『遅いインターネット』の3ポイント

thinking

特に自分の中で印象的だったのが

・東京オリンピックと日本の未来
★未来のグランドデザインなき東京オリンピックの価値

・ローカルな民主主義とグローバルな資本主義
★民主主義は世界を良い方向には持っていけない

・発信の快楽
★反射的に賛成、反対を声高に唱える人々

この3ポイント

まず序章のタイトルが
「オリンピック破壊計画」

ここで語られる東京オリンピックについての視点が面白い

そこで日本のこれからについて語ったのちに
日本、そして世界の今を語る

そこで重要な切り口が
ローカルな民主主義とグローバルな資本主義という対立構造

これからの世界を良き方向に持っていくために
この構造を見抜かなければいけない

そしてその構造についての理解を深めたら最後
それに対する宇野さんの対策、宇野さんのマニフェストである
<遅い>インターネットの提案

東京オリンピックと日本の未来

Tokyo

僕はいつも完成間近の新国立競技場が爆煙を上げて、燃え上がるさまを想像していた。

さて序章の序盤にこのような文章が出てくる

とぅーん
とぅーん
なんと!
まあ確かに予算の話とか色々あったし
気持ちはわかるが、燃え上がらなくて良いんじゃない?

なぜ、そんなことを考えたのかといえば

オリンピックとは、ある街と国が次の世代に手渡したい未来の社会の青写真があってはじめて誘致されるべきものなのだ。

とこうくるわけである

 

現代のオリンピックというのは
競技数なども増えすぎて
国にとっては不採算な事業となってしまっている

そんな中でオリンピックをやるメリットは何か?
国内で世界トップクラスのアスリートたちの競技を見るお祭りで盛り上がるからか?

それだけで誘致するには不採算すぎる

そうではなくて

 

国民に対して、世界に対して
これからの国の行き先を指し示す

そしてその未来を作るための都市計画を進行させる、など
未来を創る上で必要な投資をするためのイベントとして使う

そう、投資になっていなければ浪費になってしまう、ということだ

なのに「今回の東京オリンピックには投資すべきその青写真が描けていない」

そこが問題だと著者は指摘する

1964の東京オリンピックは戦後復興を遂げた日本が技術立国となるという青写真があった
そしてそのためのインフラとして首都高速道路も東海道新幹線もできた

それに対応するようなものが
今回あるのか?

とそういうわけである

これがないと「不採算だ」ということだけでなく
そもそも日本は今未来をデザインし直さなければいけない時期なのである

この東京オリンピックから50年以上たった今
日本は「終わってしまった国」になりつつある

G7の中で国民一人あたりのGDPは6位
かつて時価総額上位にいた日本企業は軒並み
アメリカ中国の巨大企業に飲み込まれてしまった

高度経済成長期の成功モデルに寄りかかっているうちに
世界はその先へとどんどん進んでしまったのだ

それを認めないといけない

 

そんな中めぐってきた東京オリンピック
さあ、どう生かす?
どうこれからの日本をデザインする?

そんな問いかけである

ローカルな民主主義とグローバルな資本主義

global

今世界を変えている人たちはどんな人たちか?

それはグローバルなIT企業、そしてそこで働く人々である
グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなど

これらの企業の時価総額は
もはや国家レベルのものとなっている

彼らが生み出したプロダクトは
世界中で使われ世界に変革を起こす

どこかの強国の政治家達ではなく
今世界の中心にいるのは彼らなのだ

彼らは、世界に素手で触れている感覚を持っている
そして市場は国内に留まらない

なので極端な話、国内の政治にはあまり関心がないのだ
国内の政治に関わるための民主主義は必要としていない

ただ、これは一部のエリートの話

その他大勢の人は
グローバル化の波にのまれ
「世界に素手で触れている感覚を持てないでいる」

だからこそ、大きくなりすぎてしまった世界を狭くしようとする
それがイギリスのEU離脱であり、アメリカのトランプ大統領就任なのだ

広くなりすぎた世界を小さくする
そしてその小さくなった世界の中で
民主主義に熱狂し、国を変えようとする

そうすることで世界に素手で触れている感覚を手にすることができる

となると民主主義はグローバル化の逆を行く方向い進んでいってしまう可能性が高い

今日の世界において残念ながら民主主義という名の宗教は、人々に世界に素手で触れている実感をを与える装置は、新旧の世界の分断を加速する装置にしかなっていない。この現実を受け入れた上で、どうこの暗礁から脱出するのか。それが今問われていることなのだ。

 

さて、このローカルな民主主義と
グローバルな資本主義という視点で世界を見てみると

何が見えてくるだろうか

遅いインターネットの提案

writing

民主主義の問題を解決するためにいくつかの提案がされているが
その中の1つで著者の宇野さんのマニフェストとなっているのが
<遅い>インターネットである

今インターネットによって
誰もが発信能力を手に入れた
誰もが意見を言えるようになった

「発信をするようになることで、より良い民主主義が生まれる」と
考えられた時代もあったが

残念ながらそれは厳しそうだ

世界に素手で触れている感覚のない人々は
何か寄り掛かれる物を求めている

SNS上の誰かの意見に対して
Yes、Noを声高に叫び、自分の意見かのように言う
反対意見の人と敵対し
同じ意見の人と一緒になって安心する

そこには知識に基づく分析はなく
半ば反射的に行われる

これが今の<速い>インターネットの性質なのである

 

では、<遅い>インターネットというコミュニティで何をしようとしているのか

単に「書く」ことだけを覚えてしまった人は、与えられた問いに答えることしかできない。しかし対象をある態度で「読み」、そこから得られたものを「書く」ことで人間はあたらしく問いを設定することができる。そうすることで、世界の見え方を変えることができる。

新しく問いを設定することができる発信者を育てる
そして、5年、10年たっても読まれ続ける記事をインターネット上に残していく

それが<遅い>インターネットの活動である

SNSと共に育った世代にとっては
「書く」ことの方が「読む」ことよりも当たり前になっている

しかし「書く」ことと「読む」ことはセットである
しっかりと「読む」ことで初めて「書く」に値する言葉が生まれる

それはYesやNoという二者択一の言葉ではなく
新たな問を生み出す批評的な言葉だ

今一度、「書く」こと、そして「読む」ことを
見直してみようと思わされる

『遅いインターネット』でこれからを考える

・「過去の国」になりつつある日本をどうするか
・ローカルな民主主義とグローバルな資本主義をどう捉えるか
・SNSやインターネットの情報とどう向き合うのか

「こうすればいい!」といったわかりやすいことは書かれていませんが
自分で問いを生み出すための種がたくさん散りばめられている本で

いろいろな気づきを与えてくれる本です

まだ読んでいないと言う方は
手にとってみてはいかがでしょうか

 

 

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