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【書評】『シン・ニホン』安宅和人|AI×データの時代を生きる人材

『シン・ゴジラ』

2016年に公開され、紅白歌合戦でもゴジラの演出をするほどの大ヒット作。

その映画にインスピレーションを受けて生まれたというのが今回紹介する

『シン・ニホン』安宅和人

 

著者である安宅和人さんといえば『イシューからはじめよ』の著者としても有名だ。「ロジカルシンキングでおすすめの本を5冊あげよ」と言われれば、大抵の人があげる1冊だろう。

>>【書評】『イシューからはじめよ』安宅和人|ロジカルシンキングの基礎

『シン・ニホン』の内容は、サブタイトルの通りAI×データ時代における日本の再生と人材育成。

「AIに仕事が奪われる」「AIが人間を超える」などと言われている昨今。これからの日本のために、必要な教育はどのようなもので、それを実現するためにはどうしたらいいのか、ということをデータも用いて具体的に解説していく。

 

ビジョンが長期的だし、スケール感も大きい

自分には関係ないなと思ってしまう人もいるだろう。分厚くって、ちょっととっつきづらさもある。

それでもなお、未来を創っていこうという人に読んでほしい1冊。

 

出版社のNewsPicksパブリッシングのVISIONは

希望を灯そう

まさにその言葉通りの1冊だった。

 

こんな方におすすめ

AIに関わっていきたい人

未来を創っていく人

教育に関わっている人

 

YouTubeに安宅さんの動画もあるので、こちらもあわせてどうぞ。

 

『シン・ニホン』の3ポイント

本書の構成は以下のようになっている。

序盤:これからの時代に求められるスキルや人材、教育

中盤:序盤で話した人材を生み出すための国や社会の作り方

終盤:著者が行っているまちづくりプロジェクト

どれも面白いのだが、特に自分にとって印象的だったのが、スキルや人材、教育の部分。

ということで、この記事ではその部分に絞って紹介していく。

AI×データの時代に求められるスキルは

  • 分析的に物事を捉え、筋道だてて考えを整理し、それを人に伝える力
  • 数理的基礎力や、サイエンスに対しての知見
  • 理想を思い描く妄想力

論理的に思考し、表現する力

AI×データの時代とはいえ「統計の知識を身につければいい」と考えるのは早計だ。

その前に、土台となる教養が必要である。それが論理的に考え、表現する力。本書の言葉を使って、もう少し具体的に言うと

・分析的、構成的に文章や話を理解し課題を洗い出す力

・論理的かつ建設的にモノを考え、組み上げる力

・明確かつ力強く考えを口頭及び文章で伝える力

この能力を身につけるための科目として、一番適していそうなのが国語である。しかし、残念ながら、現状はそういった目的とはかけ離れている。

我が国の国語(日本語/母国語)教育では、あえて不完全に書かれた「小説、随筆の書き手の理解、言いたいことの推測」にかなりのエネルギーが割かれ、「分析的、構造的に文章や話を理解し、課題を洗い出す」という理解・解題能力の育成は明らかに後回しになっている。(中略)つまり、日本における母国語教育とは、慮り、空気を読む能力、社会に出た時に丸く角が立たず生きる力を鍛える場であり、本来的な意味の基礎となるコミュニケーションスキル・思考能力を鍛える場になっていない。

 

論理的に考え、表現する力はロジカルシンキングと呼ばれる。

本来なら、学校教育で身につけておくべきスキルだが、社会人になってからこれらの能力の不足に悩む人が多いのが現状だ。だからこそ、書店にもロジカルシンキングの本はよく並んでいる。

国語教育の変化も必要だが、社会人は社会人なりに学んでいく必要がある。例えば、できることには、下記のようなものがある。

  • ロジカルシンキングに関する本を読み、書いてあったことを実践する
  • インプットをし、構造的にまとめた上で、文章や口頭でアウトプットする
  • 学校や職場で、分析的・構造的に考える癖をつける

文章でのアウトプットはTwitterやnote、ブログなどでできる。公開したくなければ、自分でメモ帳などに書くこともできる。

口頭でのアウトプットはYouTubeや生配信などでできる。友人に話すでもいい。

できるところから取り組んでいきたい。

論理的な思考力、表現力がこれからの時代の重要スキル

数理的基礎力の見直し

次に、理数系のスキルである。やはり、ここは避けては通れない。

国の力をあげていくためには、科学の力が必要だ。

しかし、現在、日本人の理系大学への進学率は2割強しかない。理系人材が非常に少ない状況だ。

自分は物理学科卒で、個別指導などもしていて、理系教科の嫌われ具合は感じていた。しかし、これほどまでに、理系の進学率が少ないということには驚いた。

別に、日本人が遺伝的に理数系が苦手なわけではない。むしろ、理数系の学力は高い。これは、国際的に実施された学力テストで証明されている。

ただ、問題を解く能力をあげることには成功した一方で、苦手意識を植え付けてしまっている。これが大きな問題だ。

中学2年生を見ると数学のレベルは国際評価システムTIMSS2015参加43カ国の中でも屈指(トップ5)と極めて高い一方で、数学を「とても好き」だと答える学生の割合は9%と、ほぼ最低レベルにある、という驚くべき事実だ。

 

この原因は、色々あるだろうが、つめ込み教育の弊害が大きそうだ。問題を解く能力をあげることに特化し、その効率を意識しすぎた結果、その裏に潜む面白い話をする時間が足りていない。

なんだかよくわからない公式を覚えさせられ、その使い方だけを覚えさせられる。これでは、面白さを感じるのは難しい。

自分が物理の面白さを感じたのは、授業とは別に科学者の伝記を読んでいたからだ。ある法則が、どういう問題意識のもとに、どのように発見されたのか、これこそが面白い。

そして、この物語を面白いと思ったからこそ、法則や公式も理解しようと思えた。

面白いだけでなく、その発見にまつわるストーリーを知ることには意義がある。

このことが、本書でも触れられている。

 社会に生き、若者が未来を創っていくために、人間の物語を理解しておくことは大切だ。一つひとつの異形は観念論的なものではなく、すべてリアルな課題を乗り越えることによって解決されたことであり、その実感と重さを想像することはきっと未来において彼らが何かを仕掛けるための大きな力になる。
ちなみに大学教養レベルの自然科学系の教科書一つとっても、米国ではそのあたりの試行錯誤が生々しく描かれている大変に分厚いものが多い。一方、日本は結論だけの薄っぺらいものが多い。これはおそらく高校時代から始まっている問題だと考えられる。腰を据えて教材の見直しも必須だろう。

 

理数系の面白さがより伝わるような教育に変わることができるのか。

問題を解く能力に特化した教育から、理数系科目の面白さを伝えられる教育へ!

 

才能を解き放つ

テクノロジーがものすごいスピードで進化し、先の読めない時代ともいわれる世の中で、未来を創っていくにはどうしたらいいのか?

刷新、0to1が価値創造の中心になる世界においては、単なる技術獲得だけではなく、夢を描く力、すなわち妄想力と、それを形にする力としての技術とデザイン力がカギだということだ。再びこのワイルドに未来を仕掛ける底力を発揮するときが来ている。

 

似たようなことは、最近出版された山口周さんの『ニュータイプの時代』にも書いてあった

>>【書評】『ニュータイプの時代』山口周|問題が希少で予測不能な時代での考え方

 

モノがあふれているこれからの世の中では、1を10にする力ではなく、0から1を生み出す力こそが重要になってくる。

1を10にするのは日本は得意だった。安く高品質のものを、大量に生産して売る。それに適した人材を生み出す教育をしてきた。

ただ、時代は変わってしまった。0から1を生み出す人材を、育てていかないといけない。

0から1を生み出す人材を育てていく教育に変えられるか。そういう人材を受け入れる社会を創っていけるか。

これが、今後の日本にとっての重要課題だ!

0から1を生み出す妄想力をもった人材こそがこれからの時代を創る

『シン・ニホン』のまとめ

  • AI×データの時代では論理的に理解し、伝えられる能力が必要
  • 数理的素養も必要
  • 拡張や改善ではなく、0から1を生み出していくためには、夢を描く人が必要

自分が教育に関心があったということもあり、『シン・ニホン』というボリュームたっぷりの本の、教育パートを切り取って紹介してきました。

教育パート以外で、安宅さんが考える、国家としての日本の戦略やまちづくりについても書かれています。

また、この記事では紹介していませんが、それぞれについて豊富なデータがのっています。

1人の日本人として、未来を考えていくきっかけになり、考えるために必要な素材を提供してくれる本です。興味のある方は、ぜひ、書店でてにとってみてください!

 

 

安宅さんの著書『イシューからはじめよ』
>>【書評】『イシューからはじめよ』安宅和人|ロジカルシンキングの基礎

 

同時期に発売された『遅いインターネット』も合わせて読む本としておすすめです。
『シン・ニホン』とはまた別の角度で、現代を見るための視点をくれる本です。

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